秀808の平凡日誌

第七話 血飛沫



 ソゴム山脈 赤山登山路

 上空を飛ぶ龍の姿が見える。血のように赤い翼に、闇のように黒き鱗。

「紅龍様、竜の臭いがします、此処から2時の方向で御座います。」

 長い棒の先に円がついている槍を、2時の方向に向ける。

「我主、ルーツ様に復活の血を捧げるため。」

 闇に紛れ、黒い鱗を持つ龍が一人の少女に話しかける、先ほどの槍を持つ女の事だ。

「ハイ、我らの仕事は祖龍様に明るい船出を捧げることです。」

 銅の防具には天使の羽根のような大きな真っ白い羽根が付けられいた、首には長い首飾りがついていた、両端に髑髏が付いている。

「オヤ?無謀なことに、イフリィトが一匹現れたようですね。」

 地を照らす炎の背びれが見えた、真紅の鱗に、顔に分かれるようについた目蓋が地面からこちらを睨みつけている。

 どうやら怒っているようで、いきなりブレスを吐き出してくる。

「オヤオヤ、危ない。」
 
 自らの体を越すほどの長い槍を巧みに操り、飛んでくる炎を切り裂いた。

 槍を持った少女が地に降り立ち、槍に手をかける。

「ヘイムスクリングラ、ジョイント解除。」

 何をしたのだろうか、急に槍の先の円の中が十字架が現れる。

 それを合図のように、斜め下、横、斜め上と槍と同じく真っ直ぐに伸びた槍が現れる。
 
「貴方は、祖龍様に捧げる血となるのです。」

 イフリィトの断末魔が夜の登山路の遠くまで鳴り響いた。

 音も無く首元にその槍を差し込み横に切り裂く。

 赤い滴が止め止め無く噴水のように吹き出した。

 その赤い滴を浴びるように、顔を上へと向けて目を閉じる少女。

 喜びを露わにするように、頬に靨が浮かび上がっていた。

「我は器、祖龍様に血を捧げる器なり…。」

 大口を広げ、血を吸い取るかのように口いっぱいに頬張る。

 ゴクリと一飲み、錆びた鉄のような味と匂いと夜の大地がその地を渇きを潤すように染み取っていく。

「何をしている?ネビス。祖龍様は真の復活を望んでいる、そのためにはもっとたくさんの血を集めなければならないのだ。」

 闇夜の影に身体を隠す龍、黒い影さえもが恐怖を抱えているように静かに揺れる。

 血飛沫を存分に満喫した、ネビスと呼ばれた少女が槍を首から放し、ただの肉塊となったモンスター、イフリィトが力無く倒れる。

 地面が呼応するように大きく揺れた。

「参りましょう、ゼグラム様。」





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